聴かせて、天辺の青
「エイジって、東京に行ったままなんだろ? 帰ってこないってことは、あっちが気に入ったんだろうな……うまく溶け込んでるんだよ」
胸に重いものが圧し掛かってくる。
脳裏に浮かんだ英司の顔は、まだ高校生だった頃のまま。
「英司は大学があっちで、そのまま就職したからだよ、お盆かお正月のどちらかには帰ってきてるし、いつか帰りたいって言ってる」
「それ、本気? 社交辞令みたいなもんじゃないの? 近くに来たらお立ち寄りください……みたいな、いつかって言ったら親が安心するから」
決して嫌みでもなく、感情を全く感じさせない冷ややかな口調。それなのに、私を確実に揺るがせる。
英司は帰ってくると言ったんだ。
強く念じて呑み込んだ言葉は、揺らぎを鎮めるために。
「やめてよ、もう言わないで、英司のことを悪く言わないでよ」
いつの間にか、車は白瀬大橋を渡り始めている。煌めく波の眩しさに目を細めたら景色が滲んで、目の端から温かい滴が伝い落ちた。
彼に悟られないように拭って、何事もなかったように車を走らせる。胸の奥の古傷が、ちくりと痛むのを堪えながら。