せんせい





「…もしもし?」

「あ、百恵ちゃん!? 良かった、家にいたんだねーー!」

「…わたし、表に出るの好きじゃないもの。」


昌子の親友:百恵(ももえ)は、教師の覚えもめでたい優等生であった。外で元気に遊ぶ、というよりは家で静かに読書をするのが好きなタイプで、校内外の読書感想文コンクールで賞をとることも珍しくなかった。


「……で、夏休み最後の日に、何の用なの?」

中学3年生にしては低めのセクシーボイスで百恵は問うた。


「あのね。ええと…その・・しゅ、宿題を…」

「ちょっーっと待って!」

「……え?」

「プレイバック、プレイバック…!」

「も、ももえちゃん…?」

頭のいい人というのは、どこか一本線の切れたようなところがある。百恵も例に漏れず、このように突然節をつけて歌い出すという奇癖があった。


「昌子ちゃん…それ、写させてってお願い? 同じセリフ、去年も聞いたわよ。」


さすが親友、なんでもお見通しである。


「ち、違うの、今年は…! 宿題はほとんど片付けたんだけど…」

「あら坊や、偉いじゃない。」

「もう!わたし女の子だってば百恵ちゃん!」

「ふふ、失礼。で、何が残ってるの?」

「ど…どくしょかんそうぶん…」

「…それはまた大きなものを残しちゃったわね。」


昌子のとんちんかんっぷりを昔から見てきた百恵は、会話からだいたいの状況を察することができた。しかも、今年はただ適当に書けばいいというのではない。


「森先生のハートを打ち抜くような感想文にしたいの…!百恵ちゃん、得意でしょ?お願い!助けてーー!」

なんと的外れな、しかし、いじらしい懇願であるのか。

恋する乙女は岩をも動かす。
自分にはない“女の子のいちばん大切なもの”を持っている昌子に、百恵は嫉妬にも似た感情を覚えた。


「…仕方ないわね。」

かくして、昌子は最強の助っ人を迎えて森を撃つ準備に入ったのである。



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