せんせい



「これは感想文に限らずだけど、最初の一文って大事なのよ。読む人の心をギュッと掴むキャッチコピーのようなものを冒頭にもってくる。ま、言うなれば王道パターンね。」

「キャッチコピー…?」

一時間後、昌子宅のリビングルームでは百恵による即席講座が開かれていた。

「そう。これからの展開に期待をもたせるようなもの。または、わざと疑問文で始まっても良いわ。」

「ふーん…」

「と、言われてもピンとこないわよね。そうね、例えば『こころ』なら…“恋は、罪悪だろうか。” って作中の先生のセリフを引用した問いかけから始まるとかね。」

「おおっ!なんかそれ、カッコいいね!」

「例えば、の話よ。感想文全体を書き終えてからここは書けばいいわ。とにかく、掴みは大事ってことだけ覚えておいて。」

「はーい。」

「で、ここ重要なんだけど。テーマは?」

「…テーマ?」

「そう。昌子ちゃんがこれを読んで一番強く感じたこととか。一番、訴えたいことっていうか。」

「うーん……内容はイマイチよくわかんない。一番盛り上がってたのは先生とKがお嬢さんを巡ってガチンコ勝負するとこ。」

「いやガチンコ勝負はしてないでしょ。どっちかっていうと、先生がKを出し抜いたのよね。」

「……あ、そうなんだ。」

「えええ? 何、そのレベルなの?」


がくり。再び膝を折る百恵であった。


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