上司と上手につきあう方法【完結】

と、正面から、すらりと背の高い浴衣姿の男の人が近づいてくるのが見えて――心臓がドキドキと鼓動を早めた。

それは頭が回転するよりも先に、体が驚いているような、不思議な感覚だった。



「ぶっ、部長!」

「――ん?」



しかも眼鏡をかけていない部長だ。

レアだー!


そう、部長はほんの少し緩んだ浴衣姿で、しかもたった一人でフラフラと歩いていたのだ。



「いったいどうなさったんですか?」



不思議に思いながら尋ねると、

「ああ、酔い覚ましに風呂にもう一回入ろうかと……夜中で男湯と女湯が入れ替わるって聞いたから」

さらっと答える彼。手元を見れば、確かにお風呂セットがある。



「違いますよ。朝の6時から変わるそうです。ちょうど今の時間は清掃の時間ですよ」

「え……」



部長は目を細め、清掃を始めたばかりの女湯の前に置かれた看板をジッと見つめる。




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