彼女のすべてを知らないけれど

「湊の表情がこんなに晴れやかだったことは、初めてだな。

プラスの空気が、こっちにも伝染してくるぞ」

黒スーツのイケメン神は微笑し、

「がんばれよ。仕事中、何か困っ たことがあれば、我も協力してやる」

「ありがとう、ミコト」


それから毎週、俺はポスティングのバイトに励んだ。

会社でチラシを何百枚か受けとると、キャリーバッグに積み、指定された地域に向かった。地図を片手に、一軒一軒、チラシを配り歩く。

ポストに広告を入れようとしているところをその家の人に見られ、「チラシなんてゴミになるから入れるな!」と苦情を訴えられ困惑してしまうこともあったし、雨の日 は会社の指示でカッパを着ながら配らなけ ればならないので恥ずかしくもあったが、 それ以上にやりがいもあった。

苦情もたしかにあったが、逆に感謝されることも多く、「いつもありがとう。大変だね」と、声をかけてくれる人もいた。

俺が出勤しない日は、他のアルバイターが広告を配り歩いている。週一しか働いていない自分が感謝されるなんておこがましい気がしたが、やはり、誰かに喜んでもらえるのは嬉しいものだった。
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