彼女のすべてを知らないけれど
念のため、アパートに帰る前に、ロシ アンブルーを動物病院に連れていった。
幸い、傷は浅く、骨折などもしていなかった。数日間安静にすれば、傷は治ると言われた。
しかし、獣医はロシアンブルーのことを心配していた。猫の出血がおさまらなかったのは、老猫だからだそうだ。病気もしていない健康な猫だが、近い将来、老衰で自然 に命を終える時がくる。そう診断された。
アパートに連れて帰り、ケガが治るまでこっそり面倒を見るつもりだったが、俺はそれをやめた。
そんなことをしたら、情が移ってしまう。 死んだ時に、また、悲しまなくてはならなくなる。
だったら、あまり関わらない方がいい。
動物病院から出ると、俺は猫を両腕に抱き 、命守(みことのもり)神社に向かった。
然のお母さんは喘息だと言っていたから、家の中とは言わない。神社の敷地内で、猫のケガが治るまで様子を見守ってほしいと、然に頼むつもりだ。
「俺んち、アパートだし、管理人や隣近所の人に見つかったらまずいし……」
俺がそう言うと、然は事情をわかってくれた。