彼女のすべてを知らないけれど
人間のためじゃない。このお守りは、自分の命すら守ることのできない弱い者のために使われるべきなんだ。きっと。
「ちっぽけな俺の正義を、受け取ってくれる? なんてね。クサいか」
「うなー……」
小さい鳴き声と共に、ロシアンブルーは薄く目を開き、お守りを見つめた。
「これは、何でもひとつ願いが叶うお守りなんだって。 って、こんな話しても、お前には分からないかもしれないけど」
できるだけ優しい声音で、俺は言った。
「俺には使う気がないし、これからも多分、使わない。だったら、お前にあげたいと思ったんだ。せっかくミコトが作ってくれた作品だし」
残りわずかな命を迎えた猫を、守りたい。 でも、俺にはそれができそうにない。命の終わりを見届ける覚悟ができないから。自分のことで精一杯なんだ。
「お守りっていうくらいだから、これをそばに置いておけば、お前ももう、危険な目に遭(あ)わないと思う」
然のいる神社内なら、他のどの場所より安心だが、念のため。
「またいつ、誰にそんなひどいことされるか分からないしさ」
猫の後ろ足を包む包帯を見つめた。
「ここにいれば、大丈夫だから。ゆっくり休むんだぞ」
「にゃ……」
猫の短い返事を聞くと、俺はアパートに帰宅した。
どこかもの寂しい夜の闇が、目を通して体の中に広がるみたいだ。
何も悪いことはしていないはずなのに、罪悪感に似た何かが、胸に広がっていく。何だろうね、これは。