偽りの婚約者


《寄る所が出来ました。用事が済んだら直ぐにマンションに行きます》



千夏からメールがあり、彼女が用事を済ませてここに来るのを待った。




入って来るなり、部屋中を歩き回って何かを探し始めた。




「どうしたんだ?」



そう聞いても返事は返って来ない。



「ない……、ここにもない……ここも違う……」



俺の事は目に入ってないのか、ひたすら何かを探している。
彼女が目的のものを見つけるのを黙ってみているしかなさそうだ。



「どうしたんだ?」





動き回る彼女を目で追っていると急に立ち止まり動かなくなった。
探しものは見つかったようだな。



後ろに立ち見ると千夏の手の中にあったのは見覚えのない腕時計。
女物の腕時計だった。


千夏のではないな、彼女は腕時計はしないはずだから。


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