最後の血肉晩餐
衝動を抑えることはもう出来なかった。かつて今までで、一番愛した女。


ワイングラスは恵美の顔の横、ギリギリラインをすり抜け、パリーンと壁にぶつかり砕けた。わざと手加減して外してやった。


飛び散ったワインが恵美の白いワンピースを赤に染めた。純白だった女が薄汚れてしまったかのように。


「悪酔いしたみたいだ……トイレに行って来る」


恵美の横をすり抜け、トイレに向かった。頭の中ではもう別れた女のことだ。忘れろ、忘れろと連呼した。


「貴方を愛していたからこそだったの。苦しかったのよ! 忘れて1からやり直しましょう!」


廊下に出たときに、その言葉は耳に届いたが、聞こえないふりをした。もうやり直す事は出来ないとはっきり、心はそう呟いていた。
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