最後の血肉晩餐
 口まで運ぼうとしたが鎖が邪魔で唇までは距離がある。


「鎖で飲めないか……仕方がない! 私が飲ませてあげるから」


本当はこんなワイン飲みたくない。ぶちまけたい衝動を抑えた。


「片手だけでも外してくれないかな? そしたら料理にも手に届くだろ?

いいだろう? 二人だけの人生が始まるんだ。乾杯しようよ」


「はい、いいから飲んで」


言葉を遮り、恵美はグラスを唇に押し当てた。仕方なく口を開き、飲み込む。喉も渇いていた。気持ち悪いはずのワインが、体はもっとと、心と反して欲している。


「どう? 美味しい? じゃあ料理作ってくるから待っていて」


「ああ……」


これからの先の将来が格安のプロジェクターに映し出された、走馬灯のように安易な人生が駆け巡る。


恵美との未来? 有り得ない。一度終わったものだ。元には戻れない。


では殺して外に出る? 警察のご厄介にきっとなるだろう。その後、俺はまともに生きていけるのだろうか?


なにが一番正しいのか、こんな短い時間じゃ判断が出来なくなってきている。


このままでは、ずるずると恵美といるほうが良い気もしてくる。


いや、お天道様に背を向けることは、人生に目を背けることと同じ。俺は立ち向かわなくては成らない。
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