腕枕で眠らせて
チリリンと鳴ったドアベルの音が、濁っていく私の頭をハッと覚めさせた。
「鈴原さん、すみませんお待たせしちゃって」
扉を開けた第一声に呼ばれて。泣きたくなった。
「…紗和己さ…」
「お帰りなさい、オーナー」
うっかり名前で呼んでしまった私の声を掻き消して、玉城さんが店に入って来た紗和己さんへ駆け寄った。
「すみません、遅くなりました」
「いいえ、お疲れさまです。ああ良かった、二号店の方結構ラッピングバッグ余裕があったんですね」
紗和己さんの抱えていた紙袋の束を玉城さんがいくつか受け取って数を数える。
「明日の午後には入荷されますから、とりあえずこれだけあれば足りますよね」
「充分、充分。二号店の野原店長にお礼言っとかなくっちゃ。野原さん元気にしてました?」
「ええ、あちらも忙しくて疲れてますけどね。玉城さんに宜しくって言ってましたよ」
「あはは、野原さんとまた会いたいなあ。オーナー、一段落したらまたみんなで飲みに行きましょうよ」
最低限の電気だけ点けられた閉店後の店内は薄暗くて。
ほんの少ししか離れていないはずなのに。
おかしいな、紗和己さんがよく見えない。
代わりに、よく見えるのは
半月に笑う朱色ばかり。
「鈴原さん」
穏やかに呼ばれたその声さえ、一瞬私に向けられてるものだと分からなかった。