腕枕で眠らせて



「お待たせしました。もう帰れますから、ちょっとだけ待って下さい」


ポンと肩に置かれた手の重さで、やっとそれが私に宛てられてるものだと気付いた。

思わず見上げた顔は、いつもと変わらない。いつもと変わらない、紗和己さんの笑顔。


「あ、はい。大丈夫です」


私の返事を待ってから、紗和己さんは手を離しレジの奥へ歩いて行った。


「玉城さん、じゃあ僕はこれで上がりますんで。明日また来ます」


ラッピングバッグの束をレジ下に納めながら少し急いた様子で紗和己さんが言うと、玉城さんはハッキリした瞳を弓形に曲げて「お疲れさまでした」と返した。


もう一度ポンと背中を優しく叩かれ、無言の笑顔で「帰りましょう」と促された私は、慌ててさっき書いてもらった納品伝票をしまう。


「お疲れさまです…」


覇気の無くなった声で玉城さんに言い残し、薄暗い店内を小走りでドアに向かった時



「あ、そうだ、オーナー。

山下さんやっぱり24日、25日と出られないそうです。

今年も私とオーナーで棚卸しやるしか無いですね。はは、去年みたいに夜中まで掛かんなきゃいいけど」


揃って店から出ようとしたふたりの背中に、明るい声でそれは投げ掛けられた。



「そうですか、仕方無いですね。今年は早く切り上げられるように頑張りましょう」


玉城さんを振り返って、紗和己さんが言う。


嗚呼。ああ。嗚呼。

濁りたく無い。




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