廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
この時代、手紙にも【検閲】といって
軍事機密を漏らすようなことが書かれていないか?
人々が戦意喪失するような内容ではないか?
アカ→要するに社会主義思想(国の方針とは異なる考えのため、この頃は思想犯として迫害された)のような文面ではないか?
を第三者が読んでチェックするというようなことが行われていた。
漢口の日本軍や民間人が利用する郵便ももちろん例外ではない。
悟は、手紙を墨で消されないような文章を書かなければならなかった。
昭和十九年になると、戦局もかなり行き詰まり、本人のもとに届くかさえわからない手紙である。
『貴様、この宛先は女郎屋ではないか?』
『……』
悟は郵便を手渡した検閲官に問われ答えを渋った。
『……妹が、おりまして』
『見え透いた嘘をつきおって。大日本帝国軍人なら、馴染みの女郎なんぞに手紙など書いてどうする!』
『……申し訳ありません』
『貴様、どうせ病で前線から外されたんだろう。仲間の兵隊のことを思えば、このような手紙は書けないはずだ。いったいどこの連隊だ?』
『……』
『なぜ答えん?』
『……静岡歩兵34であります』
『静岡連隊?!……貴様、よくも恥ずかしげもなく!!貴様の連隊は今頃大陸を大進撃しておる。こんな手紙を書いている暇があったら、一刻も早く連隊に復帰してお国のために……!』
検閲官は、悟の書いた手紙をビリビリと破いた。