廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜

『そうです。自ら志願して敵艦に飛行機もろとも突っ込む。……そういう作戦を海軍が始めたらしく、かつての肉弾三勇士と同じように飛行兵は【軍神】扱いです』



悟は言葉を失った。

同時に徴兵忌避を犯した自分を恥じる気持ちもあった。


まともに顔が上げられずにいた。


『私はね、遠藤さん……ここだけの話、この戦争は、いかんと思うんです』



『いかん……とはつまり』


『はい。負け戦です』


悟はゴクリと息を飲んだ。身の回りにこれ程ハッキリと【負け】を口にする者はいなかった。


『若い命が自ら敵艦に突っ込む作戦が、国によって持て囃されるということは……それなりに危機迫っている状態ですよ。

あなたも前線におられたならわかるでしょう?』





『負けたら、どうなりますか?』



『ここ、つまり大陸の漢口や南京、満州は日本が侵略して奪ったのですから、もちろん敵が奪い返すでしょう。

我々が行ったのと同じように、もしくはもっと卑劣に……』




『内地は……』


< 54 / 77 >

この作品をシェア

pagetop