廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
『もちろん、連合国に支配されます』
悟は背中にじっとりと冷たい汗をかいた。
『この度、私に召集令状が来ましてね』
男は負け戦だと言いながら、召集され戦地に赴くとあっけらかんと語る。
『死は……怖くないですか?』
悟は恐る恐る男に訊ねた。
『生きていてもねぇ……今のままじゃ地獄でしょう』
『……』
悟は絶句する。
『私、内地から出兵するんです。わざわざね。廣島の宇品から南方に向かいます。……で、もしよければ、最後にひとつ良いことをしてみようかと思いまして。検閲官が廣島云々と言うておりましたので』
『あの……いや、私なんぞに構わんで下さい。あなた身寄りは?内地で大切な方と過ごして下さい』
男は哀しく笑う。
『私は身寄りが無いんです。ただ一人、結婚を約束した女がおりましたが……結核でね』
『お気の毒です』
『彼女のお陰で、軽い結核に感染して今まで召集を逃れて来たんですよ。両親や彼女が待っていると思えば、私は死も怖くない』