紫陽花ロマンス
水捌けの悪いアスファルトの上には薄らと水溜りができていて、走るたびに水が跳ね上がる。まとわりつく水飛沫は、冷たいというより気持ち悪い。
雨が降るとわかっていたら、スカートなんて履かなかったのに。
やがて、次の交差点が見えてくる。目を凝らしたら、横断歩道の信号機は赤色。
もはや、ここまでか。
渋々、交差点の角にある喫茶店の軒下に避難する。ここからなら車道側の信号機が見えるから、青になる寸前に出て行こう。
泥水で汚れたふくらはぎをハンカチで拭って、軒先から空を睨んだ。とめどなく降り注ぐ雨の勢いは、さっきと全く変わらない。
当分止む気はなさそうだ。
夕立のくせに、生意気な。
ふうと息を吐いたら、車道の信号が黄色に変わった。
そろそろかな……と息を整えて、足元を確認。ぎゅうっと傘を握り締めて、再び歩道へと駆け出す。
その瞬間、傘にとんでもなく大きな衝撃を感じた。
握りきれずに柄から手が離れ、あっという間に傘が吹き飛んでいく。