紫陽花ロマンス
突風に浚われたのだと思った。
見事に裏返った傘は、大きな雨粒の打ち付ける濡れた路面を滑りながら横断歩道を渡っていく。私を置き去りにしたまま。
慌てて追いかけた。
ずぶ濡れになることなど、気にしてなんかいられない。ただ少し恥ずかしいだけ。
こんな時に、もう一度突風が吹いたりしませんように。
祈りながら、裏返った傘に手を伸ばす。
なんとか拾い上げた傘は角が二つ三つ欠けて、歪な形になっていた。そっと掲げると、骨が折れて悲しい形。
それでもこの大雨の下、無いよりはましだ。
歩き出そうとして、もう一度見上げたら悲しくなってきた。何度見上げても、歪な形は変わるはずもない。
本当は泣きそうなくらい悲しい。
気に入っていたのだから。
だけど、折り畳み傘だから仕方ない。
また、きっといい傘が見つかる。
言い聞かせて、俯き気味に歩き出す。