妖花
*
「おいおい、もう朝四つ時だぜえ。
早う起きぬか、ねぼすけ小僧」
ねぼすけ小僧、と言ってくるのは誰だろうか。
子供のしゃがれ声と聞いて取れる。
ぱちり、と目覚めた菊之助の鼻先にいたのは、異形だった。
「うおっ」
思わず飛び退き、菊之助は狭い長屋の部屋で、百合の傍らにちょこんと胡坐をかいている、鳥頭の赤い小鬼をまじまじと見つめた。
あのしゃがれ声は、どうやらこの妖のものらしい。
お前、ここで何してるんだよ。
そう妖に言ってやろうとして、菊之助は口を手で押さえた。
菊之助はこの妖が視える。
しかし百合はどうだろう。
百合からすれば、菊之助が独りでうわごとを言っているふうにしか映らぬはずだ。
菊之助にしてはよい判断だった。
この妖はおそらく、視覚のみで判断したところ無害な小物のようであるし、放っておいても支障は出ないだろう。
ここは騒がず放置しておくが吉、だ。
「お、おはよう、姉ちゃん」
「あんた、昨日だいぶ遅くに帰ってきたけど、何をしてたんだい」