本音は君が寝てから
自虐的な気分で『ショコラ』の前についた。
ここまで来て、入るのを躊躇う俺は何なんだろう。
いつもならもう閉店している時間だが、相本はopenの札を下げたままにしてくれている。
それはすなわち、まだ彼女が待っててくれているってことだ。
なんて言おうか。
『遅くなってごめん』それとも『連絡できなくてごめん』か?
それとももっと長々言い訳した方がいいのか?
いくつもの言葉を考えて勢いよく扉を開けると、頭上からカランという鈴の音が響いた。
抜けた。
鈴の音に持っていかれて、完全に考えていた言葉が頭から消えた。
「……あ」
視線の先に居た彼女は、その音に振り向いてこちらを向く。
その目が潤んでいるのをみて、ますます頭が真っ白になる。
「香坂さん、遅いですよ。もう待ちくたびれました」
最初に全うなことを言ったのは相本だ。
森宮さんは、一瞬俯いて鼻をすすったかと思うと、わざわざ席から立って俺の方を向いてお辞儀をした。
「香坂さん、忙しいのに来てくださってありがとうございます」
「……っ」
潤んだ瞳の彼女が、健気にも微笑んだ。
ちょっと待てって。
待たせたのは俺だ。もっと怒ってくれていいのに。
どうしてそんな予想もしてなかった顔で俺を迎えるんだ。