本音は君が寝てから


「香坂さん、一度も電話かけてきてくれないじゃないですかっ!」


彼女がいきなり立ち上がり、人差し指を俺の鼻面に押し付ける。口をパクパクさせたまま、俺は次の句が告げなくなった。

彼女は荒い呼吸を繰り返しながら、凄い形相で畳み掛ける。


「私の気持ち、分かってるでしょう? あんなわざとらしい誘い方してたんだもん。
でも香坂さん、いつも遅れてくるし、携帯番号だって教えてくれないしっ」

「ちょ、森宮さん」

「迷惑なら迷惑って……言ってくださいよぉ。私、惨めじゃないですかっ」


据わった瞳から、ポロリと涙が零れ落ちる。
彼女は拭いもしないで、ただただ俺を睨んでいる。

……だけど、凄みの利いた顔は泣いたことでもう甘えてくる表情にしか見えなくて。
俺は彼女を抱きしめたくなる衝動と戦いながらただ見つめる。


「隆二さんはずっとフォローしてくれてたけど。今日で諦めます。今まで済みませんでした」


大きく頭を下げた。……と思ったら凄い勢いで彼女は走り出した。

こら待て、酔ってたんじゃないのかよ。


「ちょ、待てって」


慌てて追いかけようとした俺が、店の扉を開こうとしたタイミングで店員に捕まえられる。

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