本音は君が寝てから
「お客さん、お勘定お願いします」
「あ、ちょ、後で!」
「……警察、突き出されたいですか?」
「くっ、もう分かったよ!」
慌てて財布を捜す。
ところがこんなときに限って見つからない。
胸ポケットじゃなかったか。ジーンズの方か。もたもたと財布を捜し、支払ってから駆け出す。
表に出た時にはすっかり彼女の姿は見えなくなっていて。
俺はどっちに向かって走ったらいいのかも分からず肩を落とす。
「……間抜けすぎる」
どうしてこう俺はヘタレなんだ。
好きな女が出来たのに。
彼女に相手がいるのかどうかさえ確認する事を恐れて。
自分の気持ちを表に出すことさえ躊躇して。
挙句不安にさせて、泣かせた。
『私の気持ち、分かってるでしょう?』
そうだ、なんとなくは分かってた。
だけど、確実な言葉をもらえるのを俺は待っていたんだ。
自分が傷つくのが怖くて、彼女が勇気を出してくれるのを待ち続けていた。
彼女はずっと頑張っていたのに。
何度も何度も、俺に呼びかけていてくれたのに。
立ち止まって会釈する。
ためらいがちに質問をする。
その彼女の動作一つ一つに、どれだけの勇気が必要だったのか。
結果を恐れて動けなかった俺には、想像もつかないほどの力で、彼女は俺に向かってきてくれたのに。