幻影都市の亡霊
「俺も、今君を亡霊にしたいと思わないんだ。ユアファは、こうやって自由にはつらつとして生きているのがあってる。君に、王宮のような場所で堅苦しい生活はして欲しくない」
「……暮らす場所が、違うもの。仕方ないわ。……でも、いつか言った言葉を覚えているでしょう?この悲しい別れであたし達の思い出をくすませるのはやめよう?今ここで別れても、あたしは一生ウィンレオを愛してる。ウィンレオは?」

「俺も、何よりも。君のためなら王座だって捨てたい!」

 ユアファは晴れやかな笑みを浮かべて、

「でも、待っている人はいる。だから、お別れ……」

 言った瞬間、気丈に笑っていたユアファの瞳から涙が零れ落ちた。ウィンレオはそっとその肩を抱いた。

「もう会えないなんて……」

 ユアファの気弱な姿を、ウィンレオが支え隠して――。

「迎えにくる」
「え?」

 ユアファは涙を浮かべてウィンレオを見た。ウィンレオは唇を噛み締めながら、

「新しい王がたったら、俺はすぐに君を迎えに来るっ……!」

 だがそれは――。

 しかしユアファは泣きながら頷いて、

「迎えに来て……」

 だが、二人にはわかっていた。長寿の幻界で新たな王が立ったとき――その時すでに短命な人間であるユアファの命が尽きているかも知れないということ――。再び会える確率が……ほとんどないということくらい、二人にはわかっていたのだ。

「ユアファ、一生愛している。そして必ず迎えに来る。その時は、一緒に暮らそう。君はその時……」
「亡霊になるから。あたしも一生愛してるから、絶対迎えに来て……」

 その夜、二人肩を並べて月を眺めながら――その朝には、ユアファ一人が泣いていた。


 その数ヵ月後、ユアファは自分の胎に、愛する男の子供が宿っていることを知ったのだった。
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