幻影都市の亡霊


 その日から、亡霊王と現界一の魔法使いの共同生活が始まった。


 二人は一緒に買い物をしたり、魔法合戦をしたり、幸せな日々を過ごした。

 ウィンレオは自分を真直ぐ見つめてくれる素敵な人に恋をしたし、その人を愛した。ユアファは強く逞しい男が自分に寄せる想いに応えたし、自分も男に強く惹かれていた。お互い、信頼できたし、相手は自分のことを考え、想ってくれる。

 ウィンレオにとっては、初めての経験だった。そうやって、応えてくれる女性がいてくれるというのは。そして、ユアファにとっても、自分を包み込めるような強さを持った、器を持った男というのは初めてだったのだ。病んでいないウィンレオは、実に大らかで芯も強い男だった。

 二人が愛し合うのは、自然なことだった。ウィンレオにとってユアファは、自分を全てから救い出してくれた恩人であり、魅力的な女性で、自分を受け止めてくれる大らかさも、どこか放って置けない危険さも持ち合わせていた。ユアファにとっては、言わずもがなだ。

 そうやって二人は、三ヶ月という短い期間であっても、深く愛し合った。だがやはり、二人の住む世界は、違ったのだ。

「……ユアファ、話がある」

 ウィンレオは、暗い声で切り出した。その日は、セレコスが来た日だった。ユアファは淋しい笑顔で、ウィンレオの言葉を待った。

「俺はそろそろ――帰らなくてはならない」
「うん」

 それは変えられない事実だった。ウィンレオには彼を待つ、沢山の民がいる。家族もいる。本当は、あの時帰らなくてはならなかったのかもしれない。だが、ユアファと離れるのを先延ばしにしたかった。

「もう、休みは終わりね」
「一緒に……っ」

 しかしウィンレオの言葉を、ユアファは首を横に振って遮った。

「あたしも、一緒にいたいし、貴方のためなら亡霊になってもいいと思う。だけど、あたしにはまだここでやらなくちゃいけないことがある。あたしにしかできないことがある。だから、ここを離れるわけにはいかないわ」

 ウィンレオも、苦渋の色が浮かんだ顔で、言った。
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