幻影都市の亡霊
「だが、もう二度と会うことの叶わぬ人だ。二度と近くで笑ってはくれないし、支えてもくれない。こんな、失礼な願いなのはわかっている。俺を見限って出て行ってくれても構わない。だが……」

 ウィンレオは顔を上げ、右手を差し出した。

「どうか、貴女だけは近くで支えてくれないだろうか?」

 ユークラフは、驚いたようにウィンレオを見た。そして、どこか嬉しそうに笑って、

「わたくし、貴方の心の闇を支えられるとは思っていなかった。そんな自信はなかった。だけど、その心をその方が支えてくれるのなら、わたくし近くで支えたい。できなかったことを、一からやり直したい――」

 その右手をそっと取った。

「本当にすまなかった」

 再び頭を下げたウィンレオの、頭をそっと抱きかかえたのは、近くでこの男を支えるのだと誓った、ユークラフだった。




 ウェインはヨミやセレコスを見て、

「ユークラフさんは、父親に愛されたのか……?」
「ああ、死ぬまでの九年間は幸せだった」
「九年っ? 死んだ?」

 ヨミの言葉にウェインは驚いた。その人はまだ生きているのだと思っていたのだ。ヨミは頷いて、

「病弱な人だと言った。彼女は二人目の子供を産んでから、病気で伏せるようになってしまったんだ。そして、二人目の子・ラムが五歳のとき、三人に看取られながら、はじけて消えた。最期に、彼女の望みを伝えて――」

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