幻影都市の亡霊
たしっ
「受け取った」
今度はシクラが、その小さな身体で自分よりも大きいウェインを抱え上げた。さすがに青くなって、
「お、降ろ……っ」
「こっちのが、早い」
言語道断で、シクラはウェインを抱えながら、跳躍しながら獣のように駆けた。哀れ、ウェインはさらに目を回すことになる。
「アルモ、ヨミ、シクラを守って先に行け!ヴィー、町にいれないぞ」
「了解、お頭」
赤紫の妖艶な女は、町と荒野の境界でくるっと振り返った。その隣にセレコスが立つ。
「さて、お祭りの始まりだな」
「この町には一歩もいれない」
ヴィアラの周りに白い泡がふつふつふつと現れだした。両手に現した鞭で、町に入ろうとする亡霊魔を問答無用に叩き落していく。
ぎゃぁあぃっぐあっぎひゃあっ
形容しがたい声が、あちこちであがる。ヴィアラの周りに浮かんだ泡が徐々に町を取り囲むように広がってゆく。
「させるかっ」
亡霊魔が白い泡を恐れ近づけないのに対し、白い亡霊ツキミはさぁっと毛を逆立て、強行突破した。しかしセレコスはそれを止めなかった。泡がツキミに触れた瞬間、
どぢゅっ、ばぎんっ
「っ……!」
触れた肌の色が赤黒く変色する。しかしツキミはそれに怯むことなく町へと入っていった。白い髪も、無惨な姿へと変じている。セレコスはそれを見送り、
「なかなか根性のある奴だな。さて、用事のある奴は、皆通ったなぁ、あとの者には、お引取り願おう」
ぞわり、とセレコスの周りの空気が鳴いた。その衝撃でヴィアラの鞭も弾け消えた。