幻影都市の亡霊
「お頭、先に行ってるわ。やりすぎて町の方に被害出さないでね」
「馬鹿やろう、お前の気泡が守ってくれるだろうが」
「ん、ま、頑張って」

 ヴィアラはそのまま町の中へと入っていった。すうっと、人一人通れるほどの通路を残していた気泡はヴィアラが通った後、閉じていった。セレコスはぱきぱきと指を鳴らし、首を回した。

「お前ら、この町に入るんじゃねぇ」

 ぎっぎっぎっぎっ……ぎっぎっぎっぎっ……

 しゅん、しゅんとセレコスを取り囲むように、亡霊魔が警戒しながら動いていた。

「……んー、たったこれっぽちか」

 彼を取り巻いた黒い影は、五十ほどいた。それを鼻でせせら笑い、

「こんな気泡くらい恐ろしくて渡れないくらいだが、何を交換条件に動いている?」

 ぎっぎっぎっぎっ……

 一体の――いや、一人の亡霊魔が前へ出た。獣のように四足で駆けていたのを、すっと背筋を伸ばした。

「ほぉ……」
「新タナ王トナル者ノ命デ動イテイル。邪魔スルナ」

 聞き取りにくいだみ声で、その黒ずくめの亡霊は言った。肌の色までも黒く染まっている。だが、目だけが狂ったように光っていた。

「新たな王だと? お前らが殺そうとしているのが新たな王だろうが」
「アレハ偽リダ。人間ガ亡霊ノ王ニナドナレルモノカ」

 セレコスがそれを笑い飛ばした。

「今の王も人間だったろうが」
「ダカラコノ世ハ乱レルノダ」

 漆黒の亡霊魔はにやりと笑った。何もかもが黒い。

「二十年前ノ事故ヲ忘レタカ? 正確ニハ十八年前ダ。歪ミヲ作ル王ナド王デナイ。導者ヲ殺ス王ナド王デナイノダ。ダカラ我等ハ亡霊ノ王タル者ノ話ニ乗ッタノダ。アノ者ノ邪気素晴ラシイ。邪気ノ塊ダ。我等ノ住ミヤスイ幻界ヲ作ッテクレルダロウ!」

 その言葉を聞き終え、セレコスは人のいい笑みを浮かべ、

「言いたいことは、それだけか?」
「何?」
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