幻影都市の亡霊
「……母さん」
「ウェイン、大変なことに巻き込んでくれたわね」

 母の怒りに触れ、ウェインは驚き、

「俺のせいなのかっ?」
「あんたが王の器なんか持ってたからこの町の人達皆大変な思いをしたのよ?わかってるの?」
「いやいやいやっ、俺の力ではどうにもならないぜ?それ!」

 うろたえるウェインを見て、ユアファはそっと顔を緩めた。そしてぽんぽんと頭を叩いて、

「久しぶりにみたら、おっきくなったね。かっこよくなった」

 ウェインはそっと顔を赤らめ、

「かっこよくって……あっ、ファム……っ!」

 ウェインは今の今まで忘れていた、自分の一番の友達を鞄から取り出した。如何せん、小さな魔造生物は目を回していた。

「あらら……でも、ウェインがファムを忘れるなんて……。とっても大変だったのねぇ」

 どこか緊張感のない会話である。そんな二人をよそに、

「どうして癒すっ?」

 ツキミはヨミに殴りかかった。ヨミはそれを受け止める。両手を掴まれ、ツキミはぐるると唸った。

「どうしてそんなに俺の邪魔をする?」
「お前を幸せにさせないためだ!」

 ヨミは哀しそうな顔をして、

「こんなに傷付いてっ! お前が、お前が不幸になるじゃないか!」
「言われずとも私は不幸だ!」

 どんと、衝撃がヨミを見舞った。かつて愛した美しい人――その顔と声で、自分は不幸だと――……。

「お前がのうのうと生きている限り不幸なんだ! お前が幸せを手にしたら不幸なんだ!」
「……しかし……。俺にどうしろと言うんだ!」

 皆は固唾を飲んで二人のやりとりを見ていた。ツキミはかっと歯を剥いた。
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