幻影都市の亡霊
「苦しめ! ハルミナの死を呪縛にして永遠に苦しめ! 夢など見るな! お前の夢の芽など踏み潰してやる!」

 それにヨミは意を決したように、

「一つになろう、ツキミ」
「なっ」

 ヨミの言葉にツキミは絶句し、他の者も意外の念を隠せなかった。

「何を言ってる……」
「お前は、俺の絶望の断片だ。だから俺を憎まずにはいられない……。もう、充分だ、俺の哀しみを背負うのは……」

 ツキミは警戒したようにヨミを見た。

「お前は、ハルミナを不幸な女だと。お前は、ハルミナのせいで哀しみを背負っている。それがなくならない限り、私は再び生まれる」
「っ……」

 ヨミは、ぐっと詰まった。ヨミは、ハルミナとの思い出をどう扱うべきか――未だに結論を出せないでいるのだ。

「……どうすれば……? 俺はどうすればこの哀しみを乗り越えられる?」

 ウェインは少し考えると、そっとヨミの隣に立って、肩を叩いた。

「笑っていればいいんじゃないか?」

 それは、ウェインなりの答えだった。ヨミがウェインを見上げた。ここまで、ウェインは自分に関わる人々の壮絶な人生を聞いてきた。そして、自分の今までが、どれだけ平凡で、そして何もしていなかったか、何も考えず逃げてきたか――それを知った。そして、ヨミとツキミのことについて一生懸命考えた。どうすればいいのか。

「笑う……?」

 ヨミが不思議そうに尋ねた。それはツキミも同じだった。ウェインは少し言葉を考え、

「……母さんは笑ってた」
「…………」

 ユアファははっとした。これは、息子の言葉だ。息子が、自分を見てきた証しだ。
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