幻影都市の亡霊
「へぇぇ~、面白いな。どうなってんだ?すげーなぁ~」

 ヨミがまじまじとコンピュータを見ている。その間にウェインは個人情報を入力し、料金も機械に支払った。しばらくの後、設置式コンピュータから乗車券が吐き出された。

「ん」

 ウェインがそれを受け取ると、

「乗り場、あっち。だけど、時間はまだあるだろ?」
「ああ」

 時計を見る。出港時間まであと三時間だ。

「んじゃ、しばらくお話しようぜ、美少年。如何せん、ウェビトスが治安悪いんで、客少ないんだよな」

 男が愚痴る。ウェインは仕方ないなぁというふうに、備え付けの椅子に座った。

「美少年はやめろ」

 ウェインが言うと、けらけらと男は笑って、

「そうか? お前を示すのにぴったりな呼び名だと思ったんだが」

 男が言う。ウェインはむっとする。ヨミが耳元で笑い、

「ほら、誰でもそう思うって」

 だが、その声は男には届かない。

「俺はダグ。あんたは?」
「ウェイン」

 男――ダグはまじまじとウェインを見た。

「ほんっと、綺麗な顔だな。羨ましいぜ。ところで、あんたまだ十代だろ?金持ちなんだな」

 確かに、大陸を越える船となると、海賊やら天候やらの問題で高くなるのだ。

「働いた。……働くくらいしか、暇つぶしはなかったからな」

 ウェインが言う。

 ウェインは魔法学校の学生だった。今は長期休暇の真っ最中である。
 七年生だが、五年生から働くことは認められていた。もっとも、好んで働くものは少なかったが、ウェインは友達もいないし、授業も簡単で暇だったので、働くことに精を出していた。
 黒鞄に入っている大金は彼の努力の賜物だ。そして、彼の母親も、決してそれを彼から取り上げるような真似はしなかった。全て、息子に任せていた。全て、息子の責任に任せていた。
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