幻影都市の亡霊
「よ、お嬢ちゃん、一人かい?」

 切符売り場で、奥の小窓に向かって望遠鏡を覗いていた男が、振り返ってウェインに話し掛けた。思いっきりしかめっ面をするウェイン。その男が切符の販売員のようだった。

「俺が、女に、見えるか?」

 ウェインが言うと、あからさまに男は残念そうな顔をして、

「なんだい、男か。男ならもっと男らしい恰好……は、してるな。んじゃ、もっと男らしい顔しろい。で、どこまで乗る?」

 軽薄そうながら、なかなか仕事熱心なようだ。

「ウェビトスのそうだな、治安が良い場所で良い所はないか?」
「ウェビトスは今、荒れてるからなぁ……。ちょっと待ってろ。今どこが最適か調べてやる」

 男は中に入っていった。ウェインはそれを見送る。

「なぁに、ウェビトスって所は荒れてるのか?」

 尋ねるヨミに、ウェインは声を低くして、

「ああ、大国二つが動乱を起こしてる。ウェビトスの北西にあるレグオンと、北東のアイゾグレンドだ。五年くらい続いてる。それにしたがってウェビトスは荒れてる」
「ふぅ~ん」

 そこに男が戻ってきたので、会話をやめる。

「そうだなぁ。ウェビトスの南東にクス・テクアラードって国がある。あそこは治安も良いし、結構な力があるから、丁度良い。乗車券発行するか?」
「宜しく頼む」
「んじゃ、これ。あっちで入力しておいて」

 そう言って、男は小さな差し込み式のキーを手渡した。ウェインは言われた場所に設置式コンピュータを見つけ、差し込み口にキーを差し込んだ。するとコンピュータが起動して、ぱんっと小さな破裂音を立てて、キーが消えた。
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