幻影都市の亡霊
「さっきのは、なんだろうな、初めて見たぞ」
「むぅ……?」

 同じ魔造生物にもわかりかねるらしい、駆けながら真剣に困った声を出す。その頃には辺りは暗くなっていた。そろそろ、彼の町が見えるはずだ。森の奥、この辺境の地に住んでいる。物好きの集まりと、言われることもある。

「そろそろ、だな。ありがとう、ファム、自分で歩く」

 ファムに礼を言って、少年は降りた。ファムはそのまま身震いすると、身体はみるみる縮んでいった。そのままファムは少年の肩に乗った。少年は歩き出した。そろそろ、町の影が見えるはずだった。街道が終わりを告げるはずだった。

「……?」

 かすかな、違和感を覚える。暗がりの中、それが何か、と言い切ることはできない。ただ、いつもと違うのだ。少年は眉をしかめた。ファムが身体を駆け下りて、少年の前を歩く。

「……む」

 ファムが、立ち止まった。その群青の瞳がきらりと不信の色に光る。

〝なんだ……?〟

 少年は思わず歩みを止めていた。あと、五分ほど歩けば、そこに着くはずだ。着くはずなのだが……。

〝何が、違う……?〟

 少年は、ひしひしと焦燥を感じた。何かが、起こっている。自分が知らないことが、起こっている。

「っ……ファムっ?」

 突然、ファムが駆け出した。少年が驚き、そのままそれを追いかけた。

「ファムっ!」

 少年はファムに追いついた。それはファムが止まっていたからだ。

「ファム……?」

 少年が訝しげにファムを見下ろす。ファムは毛を逆立てて、低く唸っている。

「……」

 何気なく、少年は視線を戻した。

「っ……!」

 その瞬間、驚愕に少年の思考は凍りついた。息をするのさえ忘れた。
< 4 / 168 >

この作品をシェア

pagetop