幻影都市の亡霊
「ファム、ちょっと大きくなれるか?お前に乗ってでも、町に着くまでに真っ暗になりそうだ」
「む」

 小さき生物――ファムは小さく声を上げ、ぶるんと身体を振るわせた。それと同時にその身体がみるみる大きくなっていった。そして、馬ほどの大きさになると、少年を見下ろした。少年はその背に飛び乗った。

「ごめんな」
「む」

 気にするな、そんなふうに返す、今では大きくなったファム。少年はにこりと笑う。ファムは真直ぐな道を駆けだした。周りを囲む森からは、森に放され野生化した魔造生物やら、神造生物やらの声が聞こえる。

 森は、深い。

 この少年にとって、この魔造生物は、たった一人の友達だった。大魔法使いと謳われる母親が、少年の幼いときに創った生き物。少年にはいなかった、友達というもの。

 ファムが十分ほど駆けた頃だろうか。少年は何かの気配に気づいた。同じ気配にファムも感づいてか、止まった。

 そのとき、木々の隙間からいくつかの影が現れた。魔造生物――およそ、何のために創りだされたかもわからぬ――薄暗くて色はわからぬが、ぬめりとした肌に、アンバランスに大きな頭。その口元から、巨大すぎて不便であろう牙が垂れる。こちらは頭と対照的に小さな身体――。その生物の群れが街道を横切っている。こういう、得体の知れない魔造生物は刺激しないに限る。この広大な森には、数え切れぬ生物達がいる。

 この道は、人間がそこに勝手に作り出した場所だ。優先すべきは生物の方なのだ。少年とファムはそれが渡り終わるのを待った。

 ぷげっ、と最後の一匹が変な鳴き声をあげて、森に消えた。ファムは再び歩み始めた。
< 3 / 168 >

この作品をシェア

pagetop