幻影都市の亡霊
「……貴方は、亡霊か……?」

 ヨミが呆然と尋ねると、男は含み笑いを浮かべて、

「そう、呼ばれることもあるな」

 すると、男はヨミの額に右手を押し当てた。

「もう後戻りはできないぞ? 棄てることはできるが、もう一度持つことは二度とできない。形とは、面倒なものだ」
「それでもいい。亡霊になって、やらなくてはならないことがある」
「…………」

 男は、ヨミの顔をやはり哀切の瞳で見つめた。だが首を小さく横に振って、ヨミに向き直ると、

「わかった。一瞬で終わるさ」

 ぐぅんっ

〝ぐっ〟

 ぐにゅりと、何もかもが歪んだ。がぐりと、何もかもが崩れた。ぶがんと、何もかもが消し飛んだ。ふぁんと、何もかもなくなった。

 そして、彼はそこに倒れていた。

「……?」

 ゆっくりと、身体を持ち上げる。

〝身体、だと……?俺は亡霊になったんじゃ……〟

 彼が横を見ると、そこには男が立っていた。地面を見る。見知ったものではなかった。というよりも、視覚という感覚が奇妙だった。眼で見ているという感じがしない。

〝もう、なっているというのか、亡霊に……?〟

 それに、地面に手をついている感覚が――やはり奇妙だ。
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