幻影都市の亡霊
「ハル……」
「呼ぶなっ!」

 ヨミは遮られて言葉を切った。男は険しい顔でヨミを睨みつけ、

「あの禍々しいものにお前の大切な人の名前を与える気かっ!? あれはお前の心にあった負の感情が、お前の一番想いの強い者に変化しているものだ!禍々しいものだぞ!」
「…………」

 ヨミは呆然と、自分の目の前に現れた真っ白い最愛の人を見つめた。にっこりと微笑んでいる真っ白いもの。ヨミは近づこうとした。すると、

「……ツキミ。私は、ツキミ」

 ぽつんとそれが呟いた瞬間、真っ白い気が辺りに打ち出された。ヨミは勢いで吹き飛ばされる。男がそっと駆け寄った。

「あれは、お前の中に眠っていた狂気……。失ったのか、最愛の人……」
「あれは……」

 ヨミの眼に止め処なく涙が溢れる。

「お前のハルミナなんかじゃない。その人の形をしているだけの霊体だ」

 つつつ、と白いものはヨミに近寄って、にぃっと悍しい笑みを浮かべた。

「私はツキミ、貴方はヨミ。貴方と私は同じもの。だけど違う。私は貴方の中の、ハルミナの想い。ハルミナは恨んでる。貴方を、恨んでる……許さない……」

 大きく瞳孔を開いた瞳で最後ヨミを睨みつけると、すぅっと白いものは消えていった。

「……何が……」
「お前の中の、彼女の存在が大きすぎたんだな。お前の中で彼女というお前とは違う存在がいたんだ。だから肉体を棄てたとき、現れ出た……。くそ、俺の失態だ。……お前これからどうする?」

 思考できぬ頭で、ヨミは男を見上げた。

「……」
「……仕方ない。お前に良い奴を紹介してやる。まずはそこで心を癒せ」

 男が空に向かって、何かを発した。
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