幻影都市の亡霊
「はじめまして、ヨミ様」
「はじめまして」

 本当に、この似ても似つかない二人が兄妹か疑った。だが、物の見事に仕草やイントネーションがそっくりなのだ。オーキッドの言葉によると病持ちらしいのだが、とてもそうには見えなかった。

「ありがとう、もう仕事に戻って良いよ」

 女中は深々と一礼して、その場から去っていった。そこでオーキッドは再びため息をついた後、満面の笑みを浮かべて、妹を抱きしめた。

「綺麗になった、ユークラフ! 私が最後に会ったときにはまだほんの少女とばかり思っていたのに!」
「当たり前ですわ。お兄様と最後に会ったのは五年も前なのですよ? 本当に、陛下と出会ってから途端に足が遠のいたんですもの。下の妹達も随分淋しがっていますわよ。陛下に一つや二つ文句を言ってもバチは当りませんことね」

 この言い分にヨミは目を丸くした。

〝やっぱり、亡霊でも血は争えないんだな……〟

 その兄は苦笑しっぱなしである。と、そこに、気配を感じさせずに近づいてくるものがあった。

「よぅ、どちら様だ、こちらのお嬢さんは」
「あ、王様」

 ヨミが何気なく言った言葉に、ユークラフは眼をまんまるにして、顔を真っ赤にさせて深々と一礼した。一礼された「王様」はきょとんと首をかしげ、

「こんな美しい方はこの宮にいらっしゃったかな?」
「妹だ、ウィンレオ」

 オーキッドがふてぶてしく言った。するとウィンレオは二人を見比べて、

「ちっとも似ていないじゃないか! 始めまして、私はクロリス=ウィンレオ=エンドストロール。お名前を尋ねてよろしいかな、美しいお嬢さん?」

 ユークラフは身体をかちこちにして、

「ゆ、ユークラフ=ファザール=イプシロンでございます、陛下」

 緊張のあまり声が震えている。可愛らしい限りだ。そのときウィンレオは、久しぶりに自分に媚びない女性と話した。この目の前にいる親友の妹は、自分に媚びていない。そういうところが兄妹だとひしひしと感じさせられる。

「そんなに緊張しないで。それに陛下、じゃなくてウィンレオだよ。そう呼べばいい」

 ユークラフは飛び上がって首を横に振った。
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