砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
独占することなどできない。だが、夢かうつつか、さだかでないこの一夜。もし幻であるなら、ただひとつの願いを叶えてから逝きたい。

繊細な愛撫、リーンのことを心から愛しむような交わり……ゆったりとした甘やかな動きがピタリと止まり、代わって、サクルのため息が聞こえた。


「リーン、いい加減にせぬか。私に何を言わせたい」

「で、ですから……」

「嘘でもいいだの、一度だけだの……冗談ではないぞ!」


瞬時に優しさが消え、苛立ちも露わにサクルは怒鳴った。

だが、続く言葉にリーンは自分の耳を疑う。


「私はこの命すら懸けてお前を愛しているのに、なぜ、それを疑う? 二度と私の心を試すような言葉は許さん。そのときは……尋ねることができなくなるまで、お前の身体に私の想いを刻み込む。覚悟しておけっ!!」


このとき初めて、リーンはサクルを近くに感じた。

見上げるだけの遠くに存在する“狂王”と呼ばれる貴人ではなく。自分を抱きしめる、逞しい腕の持ち主……生涯寄り添うと誓ったただひとりの夫として。


「サ、サクルさまに……愛していると言葉で言ってもらえないのが不安で……ひょっとしたら、ハーレムに愛する女性を待たせているのではないか、と」

「ああ、ハーレムと聞くたびにお前が悲しい顔をするので、大臣に命じて侍女以外の女はすべて嫁がせることにした。行き先のない女は母上に頼んで神殿に住まわせる。これで後宮(ハーレム)に私の妻はおまえひとりだ。それなら不満はあるまい?」
 

リーンはなんと答えたらいいのかわからない。


「但し、妻の務めを怠るな。閨の相手はお前ひとり……私の息子を孕むのもお前しかいないのだからな」

「は……はい。嬉しいです……わたし、わたしは……あっ」


サクルはリーンの答えを聞く前に、ふたたび繋がった部分に力を籠めた――。


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