なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】

 結局まったく眠くならず朝を迎え、寝ずの1日レッスンは正直きっつかったけど、余計なことは考えなくてすんだ。余計なこととはもちろんネガティブなこと。

 一日中休む暇なく働いて、でも働いているときは何も考えなくてすむ。頭がからっぽになって仕事に集中できるから。

 メールチェックができるような空き時間ができたのは夜になってからのこと。

 体はくたくた。気分はすっきり。そして顔はニコニコ。仕事後は大体こんな感じだ。体の中のよけいなものを全て流しきってすっきり爽快。



『勘違いするな。早く帰って来い』

 

 心の準備もないままにメールを開いてみたら、心臓が内側からぶち破って出てくるかと思うくらいドッキリした。

 昨日のことに対して謝ることもなく、説明するわけでもなく、命令。

 今日になってからのメールに少しはむっとしたけど、メールをしてくれたと思うだけでなんだか心は落ち着いて、力が抜ける。


『今日は帰ります』と、一言だけ書いた。帰って本人に昨日の出来事を聞いてみよう。あの女性のことを考えると勇気がいるけど、聞かないかぎり何も分からない。


『待ってる』

 萩原さん家にいるんだ。だからきっとレス早いんだろうな。
 今日、休みだったの?
 それとも昨夜は帰らないで、今朝帰ってきたとか?

 考えても無意味なことばかり考えて、こんなんじゃだめだと思って、残りの仕事を片付けようと浮かんでくるいらない思考を遮るようにフロントに戻ると、ドアの前に冬山君が立っていた。

 まさかの訪問にびっくりで、だって、来るとは思わないし何しに来たのかだってよく分からない。

「昨日、なんか俺悪いことしたみたいで、ほんとごめん」

「やめてやめて頭なんて下げないでよ。そんな仲じゃないじゃん。それにいきなり帰ったのは私の勝手な都合で、迷惑かかたのも私で、むしろ謝るのはこっちだよ」

「ほら、昨日言われたことが頭に残っててさ、考えたんだけどやっぱ俺ぜんぜん自分のことしか考えてなかったから」

「いいからいいから。もういいんだって」

 時計を見たらそろそろスタジオ2のレッスンが終わる時間だ。プライベートを職場に持ち込むのは良くないから、半ば引っ張り出すように外へ連れ出した。

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