なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】
「謝るのは私の方なんだよ。なんかそういうふうに考えさせちゃってたらほんとごめんね。もう大丈夫だから」
「まじで大丈夫? 昨日すごい悲しそうな顔してたけど、そっか大丈夫ならよかった」
肩の荷がおりたのか脱力して、胸の辺りに手を当てていて、なんかそれを見て申し訳なくなった。それから、やっぱりやししいんだなって再認識して、自然と口角が上がる。
二人とも落ち着いてくると、外は初夏が近いと知らせる草木のエネルギッシュな匂いに、つぼみから咲き始めた勢いのある花の香りがゆるい風に乗って、頬をなでていることに気付いた。
そういえば、ゴールデンウィークに旅行の約束してたな。あの約束はどうなるんだろう。こんな気持ちじゃ行けないし、行きたくない。
「それでさ、昨日の女性なんだけど」
ん? 昨日の女性?
「店長のこと?」
「まさかあのバシバシ言ってた人ってここの店長なの?」
「そうだよ。でも今日はお休みの日だから来てないけど」
「なんだ、そうなんだ」
あれ? ちょっと待って。なんでそんなに残念そうなんだろう。
「冬山君? えっと、もしかして店長に何か用事だった?」
「ほら、その店長さんにも不愉快な思いをさせちゃっただろうから、一言謝りたいっていうこ、なんか言いたいなって思って」
「そうなんだ。それなら私から言っとくからわざわざ来なくてもよかったのに」
あ、ごめんごめん。会って言いたかったからさ。何でもないんだけど、ほっとしたらちょっと気が抜けちゃって、また来るね。と意味不明なことを含めて言い残し、背を向けて歩きだした。
いや、来るのはもちろん別に構わないんだけど、でもね、ここ、私の職場で家じゃないんだよ。それにいつもいるとはかぎらないから。
これだけ言っておかないとと駆け出したそばからスタジオの電話が鳴り響いた。
まあ、いいか。今度また言えばいいか。今はとりあえず仕事を終えて早く帰ることが優先だ。
初夏の匂いのする新鮮な空気を肺いっぱい吸い込んで、スタジオへ戻った。