なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】

 野々宮さんを呼び出したのは萩原さんとバーで食事をしたあとのことだ。


 スタジオに忘れ物をしたから先に帰ってと言って、一緒に行くよと言ってくれた萩原さんを半ば強引に帰した。


 野々宮さんと会ったあのコーヒーショップには、またも野々宮さんが先に来ていてメガネをかけてパソコンを叩いていた。

 今日も頭の先から爪先まで真っ黒で、くやしいけど格好いい。

 私が入ってきたのが分かると、メガネを取りながら『どうぞ』と自分の前の席を示し、ウェイターを呼んだ。

 初めて会ったときもそんなかんじだった。



「それで、忙しい私をこんな時間に呼び出すくらいなんだから、大事な用事じゃなかったら怒るわよ」

「はい。とても大事な話です」

「言って」

「会社を...萩原さんに返してください。それからスタジオ閉鎖も考え直してください」


 きょとんとした顔なんて初めて見た。気を抜くとあどけなさが混ざるんだ。

 なんで知ってるの? って顔で目をパチパチさせている。


「私聞いちゃったんです。家で話をしてたの」


「.........あー......そうなの。それで?」


「...............別れますから」


「やっと気づいたのね。でもそれは口からの出まかせかもしれないわね」

 両肘をテーブルについて頬杖をつき、面白いものをみつけた猫のような真ん丸い目になって、ピンク色の唇を対照的に引き上げた。


 そう来るってことだって、想定したもん。少しくらいは学習した。

 送信前のメール画面を提示して、


『萩原さん

ごめんなさい、もう別れてください。

         夏菜』



 こんな文面しか思い付かなかった。なんの理由も書いてない。書けない。でもこうするべきだと思ったから...


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