狡猾な王子様
「職場じゃ、ちょっとした名物になっちゃってるんだよね」


ため息を吐いた南ちゃんに小首を傾げると、彼女は苦笑しながら続けた。


「ほら、うちの職場って小さいじゃない?」


「あ、うん」


「まぁよく言えばアットホームっていうか、社員もかなり少ないでしょ?」


秋ちゃんと南ちゃんは同じ職場だから、いわゆる“社内恋愛”ということになる。


「だから、事務と運送っていう別々の職種に就いていても、秋が長距離に出ない限りはよく顔を合わせるのよ」


小さな運送屋だから従業員は少なくて、職場の人たちからも公認の仲みたいだけど……。


「で、秋は私の顔見ると必ずからかわなきゃ気が済まなくて、私も負けじと言い返すもんだから、ああいうやり取りが日課になっちゃって」


どうやら、そこで夫婦漫才のような痴話喧嘩を披露しているらしい。


微笑ましいふたりを想像すると、また小さな笑いが零れた。


そんな私との距離を、南ちゃんがグッと詰めて来た。

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