狡猾な王子様
「とりあえず、今度あのエセ臭い男に会ったら言っとけ。『お前の私情でふうを困らせるな』ってな」


秋ちゃんが本気で言っていないことはわかったし、そもそもこんなことを英二さんに言えるはずがないけど……。


「……わかった」


見付けたばかりの口実を胸に頷き、紅茶の缶を持ったまま立ち上がった。


「私、今から行って来る」


「はぁ!?」


素っ頓狂な声を上げた秋ちゃんにとって、それは予想外の行動だったのだろう。


自分自身でも信じられないくらいだから仕方がないのかもしれないけど、私を見上げる顔は唖然としている。


「お前、もう九時だぞ!」


「木漏れ日亭はまだ営業してるし、飛ばせば三十分以内に着くから大丈夫だよ」


半纏を居間に放り投げて自室に小走りで向かうと、秋ちゃんが慌てて追って来た。


「バカ、こんな時間に行ってどうするんだよ」


「わからない。でも、なんだか気になるの」


ようやく本音を漏らした私は、ダウンジャケットを着て秋ちゃんを見上げた。

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