狡猾な王子様
「……じゃあ、あれ持って行けよ」


「え?」


「今日の夕飯のデザートにお前が作ってた、トマトゼリー」


キョトンとすると、ため息混じりに「口実になるだろ」と付け足された。


不本意そうな秋ちゃんを見つめながら、思わず微笑んでしまう。


「気をつけて行けよ。十一時までに帰って来なかったら、電話するからな」


「十一時……」


「なんだよ?」


「う、ううん!」


私を見下ろす秋ちゃんが不服そうなのは、やっぱり英二さん絡みだからだろう。


「皆には適当に言っといてやるよ」


「ありがとう。じゃあ、行ってきます」


それでも見送ってくれた秋ちゃんに笑みを向け、冷蔵庫から出したばかりのトマトゼリーを持って車に向かった。


家を出る時に誰にも見付からなかったことにホッとしたのは、普段はこんな時間に外出をすることがないから。


保冷剤とともに器ごとタッパーに入れたトマトゼリーを助手席に置き、逸る気持ちを抑えながらアクセルを踏んで夜道を走り出した──。

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