狡猾な王子様
いつも通りに午前中は畑で過ごし、午後からは配達に出た。


トランクにはいつもよりも少しだけ多めの荷物が積んであり、各配達先に着いてからそれを下ろすまでに普段以上の時間が掛かっていた。


動きやすさを重視して使用している軍手はやっぱりおしゃれとは程遠いけど、畑仕事や配達に打って付けだという理由で冬場は特に愛用していて、今日も段ボールを持つ手はしっかりと守られている。


「こんにちはー!」


その手で目の前の引き戸を開けると、店内から暖かい空気が流れ出て来た。


「おう、ふうちゃん!いらっしゃい!」


「いつもありがとね」


「こちらこそ、いつもありがとうございます」


笑顔で出迎えてくれた居酒屋のおじさんとおばさんは、今日も夫婦漫才のような会話を披露してくれた。


だけど……。


そんなふたりを見ているのが楽しいはずなのに、英二さんのことばかり考えてしまう胸の内とは裏腹の明るい表情を貼り付けながら、なんだか心がすり減っていくような気がしていた。

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