狡猾な王子様
車に乗り込んだ直後、自然とため息をついてしまった。


今日の配達先で残っているのは、木漏れ日亭だけ。


立地的に最後になってしまうことが多いからこうなるのはまったく珍しくないけど、どうして木漏れ日亭が最後なんだろう、なんて思ってしまう。


家を出た時からずっと上手く笑えないのは、配達先の中に木漏れ日亭があったから。


英二さんに会いたいと思う気持ちはあるのに、彼に会うのが少しだけつらい。


あの日以降も普通に接しているつもりだけど、英二さんはこんな私の心情をお見通しなんじゃないかと思う。


きっぱりと振られてしまったあとも上手く笑えないことがあったけど、今はあの時よりもずっと苦しくて……。


最近は配達を済ませるとすぐに帰ることが増え、仕事関連以外の会話はほとんどしていなかった。


「このままじゃ、ダメだよね……」


ポツリと零れた独り言は、車内の空気をさらに淀ませる。


程なくして木漏れ日亭が見えて来たことで、何度目かわからないため息が落ちた。

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