狡猾な王子様
「私は……」


叶わないとわかっているからこそ口に出せば泣いてしまいそうで、零した声が僅かに震えていたことに気づいた。


いつの間にか足は止まっていて、視線が地面に吸い寄せられるように下を向いている。


「あー、もういい。……わかったよ」


程なくしてため息を吐いた秋ちゃんの手が、私の頭に乗せられた。


「俺が悪かった」


秋ちゃんらしくない手つきでポンと撫でられたことに驚いたけど、それよりももっと驚いたのは素直な謝罪。


こんなにもストレートな謝罪をされた記憶は幼い頃以来で、秋ちゃんの口から出た声音に耳を疑った。


「……なんだよ。まぬけな顔してんじゃねぇよ」


「いっ……!?」


驚きのあまり顔を上げた私の額に軽くデコピンが飛んできたあと、秋ちゃんが再び歩き出した。


「お前の男を見る目はガキ以下なうえ、頑固すぎるぞ」


追いかける背中から聞こえてきた悪態が秋ちゃんなりのエールだと気づき、不器用に心配してくれる兄に思わず苦笑が零れた──。

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