狡猾な王子様
英二さんに見つめられたままの私は、自分に向けられたのは意地悪な笑みだったことに気づく。


瞳を真っ直ぐ見つめて色っぽく微笑むなんて、なんてずるいひとなんだろう。


私の気持ちを知っていて心を揺さぶる英二さんはやっぱりどこか狡猾さがあって、翻弄されていることになんだか悔しさが込み上げてくる。


それでも憎らしく思えたりはしなくて、どこまでも彼に惹かれている自分自身の気持ちを改めて思い知ってしまっただけ。


それを隠すようにティーカップに口をつけた私は、すっかり普段の笑顔に戻った英二さんと他愛のない話をしながら急ぎ気味にホットショコラを飲み干した。


「ご馳走さまでした」


「こちらこそ、味見してくれてありがとう」


「いえ。じゃあ、私はこれで……」


「うん」


立ち上がってドアの方に向かうと、いつものように調理場から出てきた英二さんが「あっ」と声を出した。


「ごめん、ちょっと待ってて」


そして、彼はそう言い残して奥の部屋に行ってしまった。

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