狡猾な王子様
「え?……あぁ、これは別に」


車に乗るために踵を返そうとしていた英二さんのおばあさんは、二枚の紙に視線を遣ったあとで言葉を濁した。


答えるまでに生まれた三秒程度の沈黙が、動揺していることを語っている。


「そ、その雑誌、私も見ました!」


私なりの精一杯の会話の繋ぎ方は目に入ったものに縋ることだったけど、それでも一瞬でも引き止める効果くらいはあったらしい。


「え?」


素直に落とされたとわかる声音に、戸惑いが混じっていた。


「お店のこと、すごく詳しく書かれてて……!あの、その雑誌が発売されたあとは、お客さんが増えたみたいで……。その頃からうちへの注文が増えましたし、ランチタイムに配達に来ると平日でも満席だったりしますし!」


なんのために、こんなことを話しているのだろう。


強引に聞かされても、ただ迷惑なだけなのかもしれないのに。


だけど……。


「だから、えっと……」


それでも、英二さんのおばあさんに、今の彼のことを少しでも知って欲しかった。

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