狡猾な王子様
「……そうですか」


必死に話題を探していると、淡々とした声音が私たちの間に落ちた。


抑揚のわからないそこにどんな心情が込められているのかは見えなくて、私の話は無意味なのかもしれないと怯んでしまいそうになる。


「あの……英二さんの料理、とても美味しいんです」


それでもなんとか言葉を紡いだのは、英二さんがいつも真摯に料理と向き合っていることを知って欲しかったから。


「私は一度しか食べたことがないんですけど、ひと口食べた時に本当に美味しくて感動したんです」


誰に対しても優しい彼は、誰に対してもどこか壁を作っているけど、料理に対しては本当に真剣だと思う。


「ネットのレビューでは、和食が苦手な方が絶賛されていたこともあって──」


「美味しくないのなら、お客さまに振る舞えないでしょう。それが仕事なんですから」


英二さんのことを知って欲しくて必死だった私は、不意に冷静な口調で遮られたことに目を見開き、その内容に驚いてすぐに切り返すことができなかった。

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