狡猾な王子様
ため息を吐いたあと、気を取り直してできるだけの笑顔で店内に足を踏み入れた。


「こんにちはー!」


だけど、ランチタイムがとっくに終わっている店内にはお客さんはもちろん、英二さんの姿も見当たらなくてガランとしている。


少し待ってもう一度声を掛けてみたけど返事はなくて、悩んだ末にいつものようにカウンターに段ボール箱を置いてから奥へと進んだ。


バックヤードの代わりにもなっている部屋の前に立つと、以前目の当たりにしたショックな光景が蘇ってくる。


佐武さんはタクシーを使って木漏れ日亭に来ることも少なくはないらしく、もしかしたら今日もまた部屋の中にはふたりがいるのかもしれないと考えて、思わず足が竦みそうになったけど……。


深呼吸をひとつしてから、勇気を出してドアをコンコンとノックした。


「……はい」


すると、少し間を置いて、掠れたような声が耳に届いた。


どうやら英二さんは眠っていたみたいで、すぐに開いたドアから現れた彼は疲れた表情で欠伸を噛み殺した。

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