狡猾な王子様
木漏れ日亭に着くまで、頭の中で何度も話の切り出し方をシュミレーションした。


あの日から数え切れないほど繰り返しているそれは記憶にしっかりと刻まれ、説明のために考えた言葉はもうとっくに暗記できている。


にも拘らず、ずっと話せずにいた私が、今日になって突然ちゃんと実行できるとは思えないけど……。


今日は英二さんにもうひとつ用件があって、それを伝えるのは彼のおばあさんのことを話したあとで、と決めている。


だから、今日こそはなんとしても勇気を出して話す必要があった。


もっとも、私にとってより勇気が必要なのは、英二さんのおばあさんのことよりも、もうひとつのことの方になりそうだけど……。


どんどん気が重くなっていく私を余所に、順調に木漏れ日亭に近づいている。


こういう時に道が空いているのは相変わらずで、運がいいのか悪いのかわからないまま国道から外れて木々に囲まれた一本道に入った。


程なくして正面に木漏れ日亭が見えたところで、駐車場から一台の車が出てきた。

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